プロトタイピングは要件定義の難しさを解決するのか?
Salesforceの生産性 ー プロトタイピングによる効果的な『要件定義』(1/3)では、要件定義が何故難しいかを以下の3点で説明しました。
- 『使う人(利用者)』は作るべきものが何か分からない
- 『作る人(開発者)』にイメージが伝わらない
- 「リスク」は議論されない
果たして、プロトタイピングはこの3つの問題を解決しているのでしょうか?
- 『使う人(利用者)』は作るべきものが何か分からない
『使う人』は、というよりも、一般的に人は、「何が欲しいですか」とオープンクエスチョンで聞かれると答えに困るものです。でも、「○○は欲しいですか?」とYES/NOで聞かれると答えられるもので、「何故ですか?」「どこがよいですか?」と聞くとどんどん答えていけるものです。そのため、プロトタイプで出発点を示し、「これでよいですか?どこか問題がありますか?」と問うと、少なくともそこから議論が始まるのです。
しかし、最も大切なことは「出発点がどこか」ということです。「作るべきものが何か分からない」ことの最も恐ろしい点は、「大切ではないことにこだわってしまう」ことです。実は大切でないものを大切だと思ってしまうと、本当に必要なものにはたどり着きません。
例えば「ボタンの位置が悪い」「操作が1つ多い」といったことは、電話を受けながら注文を代理入力するような業務では大切かもしれませんが、商談を入力するような数日に1回行う業務では商品やビジネスモデル、プロセスの変化に柔軟にシステムを対応させたり、受注率や売り上げを上げるために戦略的な分析ができることの方が重要です。ここで「ボタンの位置」など「操作性」にこだわり過ぎて全面開発してしまうと、もっと重要な「保守性」や「Salesforceの標準業務機能の活用」を阻害してしまう可能性があり、少なくともそういった議論に費やすべき時間を大きく浪費してしまいます。
ただ、作るべきものが分からない『使う人』にとって、最初に思い浮かんだそれらしいことの方が重要に思えるものなのです。今のお客様の、対象の業務に最も重要なことは何か、Salesforceのどの機能、どの理念、どの特長に注目すべきか、それを冷静に分析でき「出発点」として誘導できる専門家の「プロトタイプ」と「デモンストレーション能力」が重要になってくるというわけです。その専門家の魔法のような「プロトタイプ」と「デモ」の重要な材料が、前工程である「企画」段階の課題検討、あるべき姿の議論であることは言うまでもありません。
プロトタイプは、専門家が落とし穴を避けて適切な出発地点からお客様の頭の中の「完成形」を構築・誘導していくための強力なツールなのです。
ただし、「落とし穴を避ける」とは「誤解されそうな点は見せず誘導したい完成形だけを見せつける」という意味ではありません。『作る人』は、落とし穴になりそうな「『使う人』の小さな心配」も適切に拾って見せるべきです。むしろ、『使う人』がそれに気づく前にプロトタイプで見せてその点を説明すべきです。
大切なのは、Salesforceの専門家として、それが「どうして重要でないのか」「Salesforceがそのようにしている理由(利点・狙い)」をきちんと説明することです。それが慣れの問題であるならばそのようにデモし、またSalesforceの狙いがあるならばそれを具体的に示して見せ、『使う人』に納得してもらうことが重要なのです。